指導動画(video_summary)vs 解法レシピ(速さ.typ):解説スタイルの比較
video_summaryの講義動画文字起こし(349件)の中から、本書速さ.typに既収録の問題と問題文が完全一致する2件を発見できた。同じ問題・同じ最終解答に対し、実際の指導動画がどう解いているかを、本書が書いた解法と並べて比較する。
ケース1:2024年度 第1回 大問3(3人旅人算)
完全一致確認済みvideo: kakomon_v-tg-toshima24_3-1/3-2_c10963
A地点とB地点があり、豊子・花子・太郎の3人が移動する。豊子が最初に出発し、15分後に花子と太郎が同時に出発。花子:太郎の速さの比は3:2。豊子と太郎が出会い、その8/3分後に花子と太郎がC地点で出会う。豊子と花子は同時にB地点にゴールする。(1)C地点での豊子と花子の時間差 (2)豊子:太郎の速さの比 (3)太郎の全行程時間。
🎥 指導動画の解説(実際の口頭説明を書き起こし)
00:00
「まずは状況を整理するために、ダイヤグラムのような線分図を描いていきます」
01:37
「各地点における豊子と花子の時間差に注目します」— A地点15分差・C地点?・B地点0分差、という3点の時間差を先に書き出す。
02:03
「時間差の減少量は進んだ距離に比例します」— この一言だけでAC:CB=19:8という距離比が出る。方程式は一切登場しない。
03:36〜05:00
(1)(2)とも、比例計算だけで完結。「豊子:花子:太郎=8:15:10」という3人の速さの比を最後にまとめて出し、そこから聞かれた比を取り出すだけ。
動画のkey_takeaways(タイムスタンプ付き)
複数人の移動における時間差の推移に着目し、時間差の減少量から距離の比を決定する(02:03)
同時出発した2人の進む距離の比は速さの比に等しいことを利用し、全体の比を統一する(02:48)
📘 本書の解法レシピ(圧縮された書き言葉)
花子の速さを③、太郎の速さを②とする。太郎の出発を基準0分、豊子・太郎の出会いを$a$分後とする。
豊子・太郎の出会い、花子・太郎のC地点での出会い、豊子・花子の同時到着——3つの条件から(1)(2)(3)という3本の連立方程式を立てる。
これを連立させて解くと $a=160/21$、$D=360/7$ が得られる……という、変数を複数定義して式を解く代数的アプローチ。
→ 同じ答えに、動画は方程式ゼロ・比の図だけでたどり着いている。本書には「時間差図」という動画の技法が存在しなかった(この分析後に別解として追記済み)。
ケース2:2025年度 第1回 大問2(3)(流水算・浮き輪)
完全一致確認済みvideo: tg-toshima25_2_3
静水450m/分・流速50m/分の川を上る途中で浮き輪を落とし、気づいて引き返して回収、予定より18分遅れて到着。落としてから気づくまで何分か。
🎥 指導動画の解説
00:54
「距離が一定のとき、かかる時間は速さの逆比になる」— 上り:下り=400:500の逆比=時間比5:4として、まず「気づいてから追いつくまで」の8分だけを比の計算(和差算)で先に確定する。
01:47
「川の流れを、動く電車に例えてみましょう。電車の中で、人が歩いていて帽子を落とします……」という具体的なたとえ話で視点変換を導入し、「落としてから気づくまで」=「気づいてから追いつくまで」という対称性1点にだけ視点変換を使う。
動画のkey_takeaways
流水算における「落とし物と船の出会い・追いつき」では、川の流れを無視した相対速度で考えることで、落としてから気づくまでの時間と、気づいてから回収するまでの時間が等しくなる性質を利用する(01:47)
📘 本書の解法レシピ
未知の時間を最初から$t$とおき、視点変換後の運動をすべて$t$の式で表現。
「予定の位置より$900t$m後ろにいる」という1本の式に全情報を集約し、$9t/4=18$を解いて$t=8$を得る——視点変換を全体の計算に一貫して使う1本道のアプローチ。
→ 動画は視点変換を「対称性の確認」という1点だけに絞り、比の計算(和差算)と概念操作(視点変換)を分離している。本書の$t$一本勝負より計算ミスが起きにくい設計。
圧縮で失われているもの:5つのパターン
2件だけでも一貫した傾向が見える——解法レシピは「正しい最短の代数」に寄り、指導動画は「対称性・比・図」を段階的に切り分ける。これは偶然ではなく、書き言葉として検証しやすい(答え合わせがしやすい)解法と、口頭で12歳の生徒に伝わる解法は、そもそも別の最適化がかかっているため。
1. 別解の消失
本書の#kaihoは基本的に1つの解法しか載せない。動画には「変数を立てない比だけの解法」など、より学年相応の技法が存在するのに、圧縮の過程で選択されなかった側が消えている。
2. 「なぜ今それをするか」の順序
動画は原理("時間差の減少量は距離に比例")を先に言葉で言ってから式を書く。書き言葉の#kaihoは式が先、原理は#pointに切り離されて別枠になり、式と動機が離れてしまう。
3. たとえ話が消える
「電車の中で帽子を落とす人」のような具体的アナロジーは記憶のフックとして強力だが、数式中心の書き言葉には自然には出てこない——動画だけが持つ資産。
4. takeawayの結び付け方
動画のkey_takeawaysは特定の瞬間(タイムスタンプ)に結び付いた「その場で必要だった理由」。本書の数学的背景/出題者の意図は解答後にまとめて書く一般化されたコメントで、"その瞬間"の切迫感が薄い。
5. 図が動的に育つ過程
動画は板書が1ステップずつ更新されていく過程(board_latexの変化)がそのまま記録として残る。静止画の完成図しか載らない書き言葉は、「どの順番で図に書き込んでいくか」という手順知識を伝えにくい。
全体スイープ:349件との突き合わせ結果
本書に既収録の全35問(速さ.typ 29問+2025-1.typ 6問)の問題文を、video_summary/out の349件全ての統計的テキスト類似度(difflib)で機械的に突き合わせた。以下は類似度0.35以上、かつ実際に問題文を並べて目視確認し本物の一致と確定できたもの。
| 本書の問題 |
一致した動画 |
解法の関係 |
| 2024年度 第1回 大問3 | toshima24_3-1/3-2 | 別解を追記済み(時間差図) |
| 2025年度 第1回 大問2(3) | toshima25_2_3 | 別解を追記済み(比の分離+電車のたとえ) |
| 2022年度 第1回 大問3(1)(2) | toshima22_3-1/3-2 | 別解を追記済み(砂時計型相似、文字を一切使わない) |
| 2023年度 第2回 大問1(3) | toshima23_second_1_3 | 解法一致(ほぼ同じ手順・別解不要) |
| 2025年度 第2回 大問2(2) | toshima25_second_2_2 | 未統合(線分図+比の統一という別技法を確認) |
| 2021年度 第1回 大問2(2) | toshima21_2_2 | 未統合(同時記号を使った線分図の別解あり) |
| 2023年度 第1回 大問2(1) | toshima23_2_1 | 解法ほぼ一致 |
| 2022年度 第2回 大問2(1) | toshima22_second_2_1 | 未統合(「距離一定」を明示的に名指しする言い回しの差のみ) |
| 2023年度 第2回 大問3 | toshima23_second_3 | 解法ほぼ一致 |
| 2021年度 第1回 大問4 | toshima21_4 | 未統合(ダイヤグラムの交点を相似比で出す、より速い別解あり) |
最大の発見は個別の別解そのものより、横断的なパターン:10件中7件が「ダイヤグラム/線分図+距離一定→速さの逆比」という同一の骨格技法に帰着し、うち3件は「砂時計型相似」で交点を求めていた。本書の解法レシピ(ステップ2)にはこの技法が明示的な項目として存在しなかったため、共通奥義として新設・追記した。
実施した対応
速さ.typ:ステップ2の後に「共通奥義:ダイヤグラムの距離一定→速さの逆比と砂時計型相似」を新設。2022年度第1回大問3(1)(2)に、文字を一切使わない砂時計型相似の別解を追記。
chapters/2025-1.typ:2025年度第1回大問2(3)に、比の分離+電車のたとえ話による別解を追記。
未統合の一致(4件):上表の「未統合」は、本書の解法とおおむね同じ結論に至るが細部の技法が異なることまでは確認済みで、別解としての追記はまだ行っていない——優先度をつけて後日追記する候補として記録。
立体の切断(⑥大問6クラス)のスイープ
本書には現在、立体の切断を扱う独立した章(速さ.typ に相当するもの)がまだ無く、2025年度第1回大問6のみが(1)(2)(3)の答えだけ先出しした未執筆スタブとして存在していた。349件を「立方体|直方体|三角柱|円すい」×「切断|体積|平面」で機械的に絞り込むと39件の立体切断系動画が見つかった——これは2014〜2025年度のほぼ全年度・全回の大問6が動画化されていることを意味する。
本書との一致:39件中、既存スタブの(1)「3点F,H,Iを通る平面で切断、Eを含む立体の体積」に完全一致する動画(toshima25_6-1)を発見。(2)(3)は、同じ立方体・同じF,H,I平面という設定を使った"似た問題"(toshima25_6-2, 6-3)が見つかったが、点I,J,K,Lの位置が本書の設問と異なり(例:6-3は点LがAE上、本書はEF上)、別の年度・別の派生問題と判断——安易に流用せず、未執筆のまま残した。
使ったこと:確認できた(1)を、動画の解説(「1辺を6とおく」→「切り口を延長して大きな三角錐を作る」→「相似比1:2→体積比1:8」→「⑧−①=⑦」)に忠実な形で書き起こし、本書のスタブを差し替えた。数学的背景(平行平面の交線定理)と出題者の意図も同じ形式で追記済み。
残りの37件は、本書にまだ存在しない「立体の切断」パターン章そのものの下敷きになりうる規模の資料——速さ.typ を作った時と同じやり方(パターン別に整理・解法レシピ化)を、この分野でも行える見込みが立った、という発見が今回のスイープの最大の収穫。